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「P 座標、原点」冒頭部

【第一景之壱】

やくざな生活を初めてもうどれくらいになるだろう。あまり判然としない。というのは、どこからが「無頼で無法でやくざな」生活でどこからがそうでないのか、線引きに迷うからだ。私の場合、前妻と30歳で結婚した時から、それは始まっていたかもしれない。前妻というのは私より4つ上で、ストリップ劇場のオーナー兼支配人をしていたが(現在もしている)、その劇場は原因不明の突然死を遂げた、彼女の前夫が持っていたものだった。
彼女との夫婦関係は8年前に切れて、以来私は独身である。同棲する人もなく、毎晩一人で眠り、一人で目を覚ます。


寂しくないと言えば嘘だが私には生業(なりわい)がある。

その生業がすなわち「やくざな」ものなのだが、その一点が多分、前妻と私との縁なのだろう。征矢(そや)と私は夫婦でこそなくなったが、7年間ずっと、協力関係にあり、お互いを必要とし合っている。
征矢に会うたびに、「お前すっかり婆ぁになったなあ」と言わずにいられないが、これはいわば天気の話のようなもので、前妻はただにんまりと笑うだけだ。白と金の歯を光らせて。その笑顔はサディスティックにこう告げる。
「あんたはジョーカーで道化師。そして、勝負の胴元はあたしさ」

blog1


さて、携帯電話やPHS の普及のおかげで、私(たち)は何かとやりやすくなった。というのは、やばくなったら解約すればいいからだ。偽造の身分証明という代物は、蛇の道は蛇で、待っていれば天から落ちてくる。

世の中には、男がいて女がいる。まあ当たり前の文句だが。そして女は夢見る生き物だが、その夢は男のそれと比して、段違いに利己的である。
女に夢を見させ、その夢の浅はかさに、自己完結性の代償を払っていただくことが、ひと言で言えば私の生業である。

【第一景之弐】

4時10分になった。巨大な新宿駅構内は、今日も人間が往来する。私もその一人だ。
今日は駄目な一日だった。阿佐ヶ谷でも池袋でも、カモと目した女性に無視された。電話で征矢にねちねちと、あんたも爺ぃになったってことよねえ、あんたはいいよ生活かかってないからさぁ、あたしは税金払って従業員に給料払わなきゃいけないのよ、聞いてる大根役者さん、と悪態をつかれ放題だ。
悪口を叩いている間は、あの女は怖くないから構わないのだが「爺ぃ」という語は少々痛かった。本当に体が痛くなる気すらする。よく考えると腹が空いていて、胃が痛むのかもしれない。昼飯がファストフードだったから…
あと一人、声をかけて駄目なら帰るか。私はそう思って、地下構内を眺め渡した。と、茶色の革のコートを着た若い女性が視野に入った。
blog4


「近畿ツーリスト」のガラスドアのところで立ち止まり、陳列してある海外旅行のパンフレットを、そぞろな指先でつまんで目を通している。髪は流行のボブで、清楚な感じの目鼻立ちをしている。堅い会社のOL だろうか。だとすればこんな時間に、伊勢丹の買い物袋を提げているのが不思議だが。間違いなさそうなのは、彼女が若く、綺麗で、身なりも良いというところだ。それこそが肝心な点である。
私は何気なく近づき、やや緊張気味に、ご旅行ですか? と声をかけた。

blog3


「どなたと旅行するの」
「あの…母と」
革コートの女性は用心しいしい答えた。近くで見ると、縁なし眼鏡をかけて落ち着いた風情だ。
「海外旅行も最近は安いよね。沖縄に行くより安いものもある。お嬢さんは旅慣れてる? 」
「うーん、そうね。その方かな」彼女は私の顔と、パンフレットを見比べながら、やはり用心深い態度を崩さない。視線に「何だろうこの人」という不審さがこもっているが、同時にそこには好奇心も動いているのが見て取れた。これは期待出来るかもしれない。私はここぞと喋り始めた。「サブナードの中にね、代理店があるんだ。もう20年くらい営業しているところ。そこのパンフレットを見て見なさいよ、安いから。ちょっと一緒に行かない? 」
「え…」
「時間がないかな」
「ないことはないわ…どうしようかな」
「怪しい奴じゃないですよ、僕は」
ほんの少し恥ずかしげな笑顔を作ると、つられたのか彼女も初めて頬をゆるめた。だがその微笑はやはりどこか硬い。「困ったオヤジ」と思われているのかもしれないが、ともかく向こうは口を開いた。会話をとぎらせ、相手に考えさせてはまずいのだ。「ちょっと、歩くだけじゃないですか」
「そうですね」
目指すところにつくまで、私はあえてこの女の子に話しかけなかった。彼女も黙って、半歩遅れて私についてきたが、旅行代理店の前で、ああ、こんな所にあったの、とつぶやいた。「全日空で行くヨーロッパ」のパンフを見てにっこりし折り畳んで買い物袋に入れた。
「ヨーロッパに行くんだ」
「そう…母は行ったことがないから」
身じろぎしかけた彼女に、私は言ってみた。「お茶でも一緒にどうですか。ご馳走するよ」

「え…そんな、初めてあった人と」
「でも会ってから、10分は経ったよ」しょうがないなあ、という笑みが彼女の頬に広がり、じゃあ行きましょう、と明るく言った。
blog2


私たちは「PRONTO」に入った。彼女が席を確保し、私は彼女が頼んだコーヒー・ゼリーと自分のコーヒーを盆に載せて、店内を進んだ。
「どうもありがとうございます」
「いいの、いいの」彼女の右側に座って私はさりげなく、こういうタイプのお店を前に一軒持っていたんだけど、と切り出した。
「『ドトール』のタイプのお店ってこと? 」
「そうそう」
「おじさま、経営者なんだ。で、そのお店は」
「うーん、いろいろあって、手放した。リサーチが甘かったんだ。今は居酒屋を持ってる。それでこうして昼はぶらぶら出来るの」言い終えるとすぐ、鞄に付けたPHS が鳴りだした。前妻からだった。
「首尾はどうなの」
blog5


うん、上々だよ、と応じる。「…綺麗なタマだろうね」ここでその問いには、もちろん答えられないので、2時間後にかける、と言うと、すぐに察して含み笑いで通話が切られた。こういう状況は良くあることだ。私のカモとなってくれる女性たちは、こんな寸劇で私の事を事業主だと信じるようだ。では、目の前の、この固そうな女性はどうか。信じてもらいたいものだが、それは今後によるだろう。「お嬢さんは、お母さんと一緒に住んでるの」
「…うん、そうよ」心なしかためらった返事だった。
「すごく大事にされていそうですよね。デートのときにも門限があるんでしょう、きっと」半分はふざけて、だが半分は本当にそういう「良い家」の娘なのかもという憶測で口にした感想だったが、返答はちょっと意外なものだった。
「私、奥さんなの。おじさまと同じで、昼間ぶらぶらしてるの」

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「へえ…驚いた。全然そうは見えない。ちっとも所帯じみてないもの。新婚? 」彼女は苦笑していやあね、と言ったがそう不快でもなさそうだった。もっともこちらの世辞に大はしゃぎしてはいない事も明らかで(笑顔が「社交用」のそれだった)、この子は無理かもしれない、選択を誤ったという考えが胸をかすめた。だが一方で、弱気は禁物、図々しく厚かましく確信を持つのだ、との思いもわき上がってきた。一見清楚だが内実は…と言う女性は山ほどいるのを私は見てきた。

blog7


人妻らしくない、可愛らしい人妻は、スプーンを口に運びつつ言った。「ボーイフレンドが欲しいな、って思うときがあるの。悪い事かもしれないけど」

06237


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深良マユミ、増上寺にて



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